月刊「根本宗子」『夢と希望の先』
月刊「根本宗子」『夢と希望の先』
を9/29の昼に観劇。
劇団にとって初の本多劇場進出。
私にとっては柿喰う客の『天邪鬼』以来二度目の本多劇場だったのだが、劇場の持つパワーというか根性のようなものがずばずば感じられた。
フライヤーデザイン。毎公演、根本氏がモデルを担当している。
脚本・演出・主演・モデル
彼女自身が「演劇」を体現しているみたいな劇団、というイメージ。
ねもしゅー、ここ最近の人気・勢いがすさまじく、ポスト三谷幸喜とも言われているので、今回の初観劇をとても楽しみにしていた。
玉置さんが降板して残念、観に行く気が……。という意見を自分の周りでもネット上でもたくさん見るけれど、急遽ピンチヒッターに選ばれた田村健太郎さんの演技はシンプルかつ丁寧で嘘がなく、俳優の底力かくありなん、と思った。とても3日ほどの稽古で身に入れたとは思えない演技。すごい。
感想。など。
物語は一組の男女と、その周りの人たちの10年前と現在が、同時に進行しながら進む。
舞台下手は10年前の部屋。俳優志望の女性の家に、小説家崩れの男が半同棲といった形で暮らしている。まだ付き合い始めてから日が浅いらしく、二人の関係性もどこか初々しい。
一方で舞台上手は現在の部屋。スーツルックの女性がせこせこと出発の準備をしている。どうやら10年後も同棲は続いているものの、女性は俳優になることをあきらめて会社勤め、男はうだつが上がらないままフリーター暮らしといった有様のようだ。
主なストーリーの軸は、田舎から上京してきた幼馴染が、ダメ男と暮らしてる親友を見かねて、しつこく別れることをせがんでくる10年前の葛藤と、東京でできた親友の妊娠・結婚・出産などに際し、女としての幸せを今の彼氏と築けるだろうかという現在の葛藤であり、両者が舞台の上手と下手でクロスオーバーしながら進んでいく。
しかし、現在の彼が部屋で別の女と浮気しているところから話が急展開。その後、女の口から10年間積もり積もった後悔とか妥協が怒涛のようにあふれ出る。
「だからそういうのが重いって言ってるんじゃん。なんでわかんないかなぁ」(台詞は適当です)という男の台詞は、修羅場で言ってはいけない言葉ランキング1位だけど、ちょっと共感する。愛はきっと小出しにするから貴重なんだろう。
……「こんなはずじゃなかった。」とか「あの時こうしていれば、もっと幸せだった」などと思うのは誰しもが持ちうるもので、そういった心象を二つの劇中での生歌によって際立たせる演出方法は、無条件で共感、感動してしまう。音楽のライブ性のもつ底知れない破壊力。
同様に、「過去の選択を悔やんでる暇があるなら、明日の幸せを願っていこうぜ!」という大きな主張を、芝居の最後に出演者全員による「トゥモロー」合唱によって表現するのはぐうの音も出ないほど明るく突き抜けている。もうパワーが果てしない。
恋愛のあれやこれやを演劇で表現する方法の一つとして、今回はとても参考になった。
同じような恋愛のあれやこれやとしてハロルド・ピンターの『背信』を思い浮かべた。こちらはある一組の男女の不倫関係を別れから出会いにかけて描いたもので、時系列をさかさまにしたことによって恋とか愛とかが持つ切なさとかが超皮肉的に表れている。
ハロルド・ピンター (1) 温室/背信/家族の声(ハヤカワ演劇文庫 23)
- 作者: ハロルド・ピンター,Harold Pinter,喜志哲雄
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2009/07/30
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きっと、この『夢と希望の先』での演出も、恋愛における後悔とかそれに伴う妥協とかを表すための同時進行なんだろう、とぼんやり考えている。